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電気通信主任技術者試験 過去問解説 第4回

交流回路の消費電力



電気通信
システム
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通信
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本日1月27日は、平成27年度第2回の試験問題と解答の公開日です。 弊社では、これから過去問データベースの更新作業が始まります。その関係で過去問解説は、今後はしばらく ペースダウンしてしまうかと思われます。ご了承ください。

◆問題

平成25年度第1回(2013年7月実施)電気通信主任技術者試験の「電気通信システム」の 問3の過去問です。

弊社では、恥ずかしながら「電気通信システム」のオリジナルテキスト執筆まで手が回らず、 この科目の受験対策講座は開講しておりません。しかし、「電気通信システム」は工事担任者試験の「基礎」と 重なる部分が多いため、「基礎」のコースを開講している弊社は対応可能なレベルにはなっています。 そして過去問解説の講習会ならばテキスト要らずなので、弊社でも実施可能です。 今回は、そのデモンストレーションを兼ねております。

「電気通信システム」は工事担任者試験の「基礎」と似ていますが、 「電気通信システム」のほうが明らかに難易度は上です。問題の中には「伝送」や「交換」で出題されても おかしくないようなテーマの出題があります。またジャンルが「基礎」と重なっている出題でも、難易度が高くなっています。

電気通信主任技術者資格を取る前段として工事担任者資格を取るルートがありますが、 「電気通信システム」の科目免除を勝ち取るだけでも 工事担任者資格取得の意味があると感じられます。しかし、 工事担任者の「技術」は、電気通信主任技術者試験にはない難しさがあり、別の面で苦労します。 いずれにせよ国家資格は楽に取れないようです。

出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(ウ)に適した番号を選ぶ問題です。 なお図記号は、現行のものに変更してあります。出題当時の図記号は、抵抗がまだギザギザでした。

図に示すように、無誘導抵抗4〔Ω〕及び2〔Ω〕、誘導リアクタンス3〔Ω〕を接続し、 端子a−b間に交流電圧を加えたとき、25〔A〕の電流が流れた。この回路の全消費電力は、(ウ)〔W〕 である。

 ① 900  ② 1,358  ③ 2,150  ④ 2,321  ⑤ 3,750
問題の回路図

◆解答

正解は、③ 2,150です。

◆解説

◇概要

直列と並列が混在した出題です。 このパターンは、工事担任者試験の「基礎」では、少なくても直近5年間は出題されていません。 その点で問題のレベルは、「基礎」を越えています。 しかし、使う公式は、すべて工事担任者試験の「基礎」レベルです。 つまり知識そのものではなく、知識を活用する力が問われている問題です。 その点が特徴的なので、この問題を選びました。

なお、ここから単位を省略します。電圧の単位は〔V〕、電流の単位は〔A〕、 電力の単位は〔W〕、インピーダンスと抵抗とリアクタンスの単位は〔Ω〕です。

◇インピーダンスを求める公式は?

解説本に登場する合成インピーダンスを求める公式は、R-L-C直列とR-L-C並列だけです。 直列の公式は(1)、並列の公式は(2)です。「Z = ・・・」の形になっていませんが、このほうが計算式が簡単になるので、 弊社ではこの形をお勧めしています。なお、Rは抵抗、XLは誘導性リアクタンス、 XCは容量性リアクタンスです。

直列: Z2 = R2 + (XL - XC)2

(1)

並列: 1/Z2 = 1/R2  + (1/XL - 1/XC)2

(2)

抵抗のR、コイルのL、コンデンサのCのいずれかがないときの公式は、抜けているR、XLまたはXCを無視した形になります。

ところで、 インピーダンスどうしの直列や並列の公式は、解説本には出てきません。 たとえば直列の場合、インピーダンスZ1とインピーダンスZ2の合成インピーダンスZは、 下の公式で求められそうな気もします。

Z = Z1 + Z2

(3)

残念ながら、この公式は使えないとお考えください。使うためにはZが複素インピーダンスでなければなりません。 基本的に解説本に出てくるZは、インピーダンスの絶対値です。複素インピーダンスは、虚数単位 j を使ったインピーダンスです。 式(3)を使うためには、虚数を使った計算をしなければなりません。 解説本によっては、複素インピーダンスを扱っています。その場合には、式(3)が出てくるかもしれません。 しかし、多くの場合は、Zの上に複素数であることを示す点が付いているはずです。それに気がつかず、 式(3)をいつでも使える公式と勘違いしないようにしてください。

ここでは、数学的予備知識が少なくて済むように、複素インピーダンスを使わない解法をご紹介します。 必要な前提知識は、電気回路の基礎知識と三平方の定理だけです。

◇素子に名前を付ける

回路図が出る問題では、回路上の素子や後で使いそうな電圧や電流に、原則的には名前を付けてください。 名前を付けておかないと、たとえば2〔Ω〕の抵抗が複数あるときに、どちらの抵抗か判別がつかなくなります。 また、電圧や電流に名前を付けておくと、計算の手順を検討する際に便利です。 下の図では、書き込み部分を赤で示してあります。

素子に名前を付けた回路図

回路の左側をAパート、右側をBパートとしています。今回は、左側のAパートの合成インピーダンスにも、 ZAという名前を付けました。

◇ゴールから逆算して手順を考える!

まず、公式の復習です。抵抗の両端の電圧をV、抵抗に流れる電流をIとすると、電力Pは式(4)で求められます。 (力率が抜けているように思われるかもしれませんが、抵抗素子だけの場合は力率は1です。)

P = V I

(4)

では、問題に目を向けます。求めるべき値は、回路全体の消費電力です。これを、Pとします。 これは、Aパートの消費電力 PAと、Bパートの消費電力PBの和です。

P = PA + PB

(5)

Bパートの消費電力 PBは、電流Iと抵抗 RBの値が分かっているので、容易に求められます。 式(4)と、オームの法則 V = I R と組み合わせると、下のようになります。

PB = VB I = (I RB) I= I2 RB

(6)

Aパートの消費電力 PAは、少々ややこしくなります。まず思い出さねばならないのは、電力が消費されるのは、 抵抗だけいう点です。コイルやコンデンサでは、電力は消費されません。理想的なコイルやコンデンサは、 電流を通しても熱くはならないのです。(理想と現実のギャップはありがちですが。) したがって、Aパートの両端の電圧をVAとすると、Aパートの消費電力PAは、

PA = VA IR  = VA (VA/RA) = VA2/RA

(7)

PAについて、式(6)と同じように電流IRからアプローチする方法も考えられますが、 電流IRを求める方法は、簡単に見つかりません。 しかし、VAならば、合成インピーダンスZAがわかれば、 交流のオームの法則から求めることができます。

VA = I ZA

(8)

そして合成インピーダンスZAは、抵抗RAと誘導性リアクタンスXLから求められます。 式(2)でXCを無視したものを使います。

1/ZA2 = 1/RA2  + 1/XL2

(9)

これで手順が組み立てられます。

  1. 抵抗RAと誘導性リアクタンスXLから、合成インピーダンスZAを求める。 (式(9)
  2. 電流Iと合成インピーダンスZAから、Aパートの両端の電圧をVAを求める。 (式(8)
  3. 抵抗RAとAパートの両端の電圧VAから、Aパートの消費電力PAを求める。 (式(7)
  4. 電流Iと抵抗RBから、Bパートの消費電力PBを求める。 (式(6)
  5. Aパートの消費電力PAとBパートの消費電力PBから、回路全体の消費電力Pを求める。 (式(5)

このような計算問題を解くときは、まず手順を組み立てます。そして考えた手順を、 書き出してください。上のように丁寧に書く必要はありません。たとえば手順1ならば、「RA、XL→ZA」程度で十分です。 手順を書き出すことにより、計算の目的がはっきりするので、迷走状態に入ることを防げます。

お気づきでしょうか。実は、インピーダンスが直列になった場合の公式は、不要なのです。 使えそうな公式に目を付けて、そこを出発点にして考えるアプローチの怖さが、この辺りにあります。 公式を知っていたとしても、目を付けた公式がゴールに向かっているとは限りません。 ゴールへの入り口らしきものは、いくつも見つかります。しかし、その中にはゴールにつながらないハズレもあります。 ゴールにつながる入り口は、ひとつしかないゴールからたどれば、確実に見つけられます。

◇かけ算は後回し、まず約分! 分数は慌てて小数にしない!

手順に従って、計算を進めていきます。計算の方針は、上の行のタイトルのとおりです。 ただし手順1では、約分の出番はありません。約分の出番は、手順2以降です。

手順1.

抵抗RAと誘導性リアクタンスXLから、 合成インピーダンスZAを、式(9)を使って求めます。

1/ZA2 = 1/RA2  + 1/XL2

         = 1/32 + 1/42

         = 42/(32 × 42)  + 32/(32 × 42)    ← 通分

         = (42 + 32)/(32 × 42)

         = 52/(32 × 42)     ← 三平方の定理
         = { 5/(3 × 4) }2        (32 + 42 = 52

         = ( 5/12 )2

∴ZA = 12/5

(10)

計算のコツは、最後に全体の2乗となるよう、2乗の計算はせずに、そのまま残す点です。 最後の計算結果も、この先の計算での約分を期待して、分数のままにしておきます。

今回は、3 × 4 を計算しています。もしこれが、大きな値なるような式の場合は、 かけ算のまま残して、この後の約分に期待したほうがベターです。

なお、三平方の定理ですが、俗に言う「さしご(345)」だけでなく、 ほかの関係式が使われることもあります。(正確に書くと、工事担任者試験の「基礎」で、 使われたことがありました。) まとめて下に並べておきます。

32 +  42 =  52

(11)

52 + 122 = 132

(12)

72 + 242 = 252

(13)

手順2.

電流Iと式(10)で求めた合成インピーダンスZAから、 Aパートの両端の電圧をVAを、式(8)を使って求めます。

VA = I ZA

    =  25 × (12/5)

    =  (25 × 12)/5

    = 5 × 12    ← 5で約分

    = 60

(14)

この約分が、分数を残した効果です。手順1で、12/5 を計算して 2.4 にしておくと、 手順2で、25×2.4 のかけ算をしなくてはなりません。この試験では、電卓は使えません。 かけ算は、計算の時間がかかるだけでなく、 計算ミスのリスクが高くなります。このような理由で、分数&約分方式がお勧めなのです。

なお、この先の約分を期待して、最後の計算結果をかけ算のままにしておく手もあります。 しかし今回は、計算結果が10の倍数で、比較的計算しやすい値なので、かけ算まで済ませてあります。

手順3.

抵抗RA式(14)で求めたAパートの両端の電圧VAから、 Aパートの消費電力PAを、式(7)を使って求めます。

PA = VA2/RA

    = 602/4

    = (60 × 60)/4

    = 15 × 60    ← 4で約分

    = 900

(15)

この次に、PAを使うのは、式(5)の足し算なので、 ここでは最後のかけ算まで進めています。もし、この後でかけ算や割り算が続くのならば、 約分の計算が楽になるように 15 × 60 で止めておく方がベターです。

手順4.

電流Iと抵抗RBから、Bパートの消費電力PBを、式(6)を使って求めます。

PB = I2 RB

    = 252 × 2

    = 1250

(16)

最後のところは、素直にかけ算をやる方法のほかに、 25 = 100/4 に注目して下のように進める考え方もあります。

252 × 2 = (100/4)2 × 2 

           =  {(100 × 100)/(4 × 4)} × 2 

           =  100 × {(100 × 2)/(4 × 4)} 

           =  100 × {100/(2 × 4)}    ← 2で約分

           =  100 ×(25/2)    ← 4で約分

           =  100 × 12.5

           =  1250

(17)

計算のしかたは、その時々で、いろいろ工夫できることもあります。 式(17)ならば他に、25 × 50 に行く方法や、1000 ÷ 8 に行く方法など、いろいろあります。 本試験では電卓が使えないので、計算ミスが少なくなるような、 かつ後で見直しがしやすい、かつ自分の思考になじんだ計算方法を選んでください。

手順5.

式(15)で求めたAパートの消費電力PAと、 式(16)で求めたBパートの消費電力PBから、 回路全体の消費電力Pを、式(5)を使って求めます。

P = PA + PB

  = 1250 + 900

  = 2150

(18)

したがって、求める消費電力は、2,150〔W〕です。

◇手順を細かく区切る!

交流回路のような計算の手順が長くなる計算問題では、手順を細かく区切ってください。 計算問題の分野が、トランジスタ回路でも、トラヒック理論でも、信頼性でも同様です。

手順を細かく区切る目的は、2つあります。

1点目は、ひとつひとつの計算を単純化することにより、計算ミスを防止することです。 長い計算を一気に進めようとすると、ミスが増加します。計算している最中の不安感がミスを誘発することもあります。 手順を単純化することにより、気持ちを集中できます。

2点目は、ミスが発見しやすくなる点です。たとえば、電気通信システムに技術的な問題が発生したとき、 原因分析のために問題の切り分けを行います。どこに問題が潜んでいるかを、絞り込んでいきます。計算ミスでも同じです。 ミスした場所を特定しなくてはなりません。手順を細かく区切ることにより、ミスを発見しやすくなります。


手順を細かく区切ることは、少々面倒に感じられると思います。手順を区切ることは、 難解な問題を易しい問題に分解する作業です。言い換えれば、難しさを面倒くささに変換しているのです。 手順を区切ることにより、はじめて解決できる問題もあります。

計算も仕事と同様に、動く前に手順を考えることが大切です。