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2016年 8月 5日
平成27年度第2回(2016年1月実施) 電気通信主任技術者試験の「伝送交換設備及び設備管理」の 問2 (2)(ⅱ)の過去問です。 平成23年度第1回(2011年7月実施)にも、同様の出題がありました。
出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(カ)に適した番号を選ぶ問題です。
アンテナの特性について述べた次の文章のうち、誤っているものは、(カ)。
① | マイクロ波固定通信で用いられるアンテナの特性としては、一般に、 アンテナの正対方向と正対方向以外との間の干渉を少なくするための鋭い指向性、 高い利得、高い交差偏波識別度及び広い帯域にわたり良好なインピーダンス特性を有することなどが要求される。 |
② | アンテナの開口効率は、 アンテナの開口面積が同一である任意のアンテナの利得と理想的なアンテナの利得との比により求めることができる。 |
③ | アンテナの利得は、 使用する無線周波数が一定の条件ではアンテナの開口面積及び開口効率の2乗に比例する。 また、開口面積及び開口効率が一定の条件では使用する無線周波数に比例する。 |
④ | 交差偏波識別度は、アンテナにおいて、 直線偏波における垂直偏波と水平偏波、 あるいは円偏波における右旋円偏波と左旋円偏波を識別し得る能力を表すとされている。 |
誤った選択肢は、③です。
アンテナに関する出題です。
伝送交換設備及び設備管理では、 無線伝送に関する問題は実施回によっては出題されないこともあります。しかし、 弊社の分類では、平成27年度第1回(2015年7月実施)から平成28年度第1回(2016年7月実施)まで、 3回連続で出題が続いています。(どの問題を無線伝送関連に分類するかは、 解釈の分かれることろかと思いますので、その点はお含み置きください。)
無線伝送に関する出題テーマは、大きくは、電波、アンテナ、移動体通信、衛星通信です。 今回の問題は、それらの中のアンテナからの出題です。アンテナには、様々な種類があります。しかし、伝送交換設備及び設備管理で出題されてきたアンテナは、 バラボラアンテナとその発展型、ホーンアンテナ、ホーンリフレクタアンテナなど、ごく一部に限られています。 今回の問題は、主にパラボラアンテナなどの開口面アンテナと呼ばれるアンテナについての出題です。
選択肢①は、正しい文章です。
マイクロ波固定通信で用いられるアンテナの特性としては、一般に、 アンテナの正対方向と正対方向以外との間の干渉を少なくするための鋭い指向性、 高い利得、高い交差偏波識別度及び広い帯域にわたり良好なインピーダンス特性を有することなどが要求される。
問題文で、解答に関係するキーワードを見ていきます。まず「マイクロ波」についてです。
「マイクロ波」には厳密な定義がありません。概ね、短い波長の電波の意味で使われています。 細かいことですが、少々ややこしい点があります。 ときには「マイクロ波」がSHFの別称としても使われることがある点です。 しかし、この使い方は、少なくても電気通信主任技術者試験の問題文としては、あまり見かけられません。 したがって、問題文を読むときは「短い波長の電波」と割り切ってください。
参考まで、電波の略称を下の表に示します。
略称 | 周波数 |
名称 |
波長による呼称 |
---|---|---|---|
VLF | 3~30 kHz |
ミリアメートル波 |
|
LF | 30~300 kHz |
長波 |
キロメートル波 |
MF | 300~3,000 kHz |
中波 |
ヘクトメートル波 |
HF | 3~30 MHz |
短波 |
デカメートル波 |
VHF | 30~300 MHz |
超短波 |
メートル波 |
UHF | 300~3,000 MHz |
極超短波 |
デシメートル波 |
SHF | 3~30 GHz |
デシメートル波 |
|
EHF | 30~300 GHz |
ミリメートル波 |
|
THF | 300~3,000 GHz |
デシミリメートル波 サブミリ波 |
次の「固定通信」です。これは、「移動通信」と対比して考えると理解しやすくなります。 固定通信では、移動通信と異なり、通信先の位置が固定しています。そこで、通信先の方向だけに電波の出力を集中させたほうが、 質の良い無線伝送が行えます。受信するときも同様です。この特定の方向に強い電波を送信する、または強く電波を受信する性質は、 指向性と呼ばれます。
固定通信で指向性の低いアンテナを使った場合、通信相手とは異なる方向からの電波も強く受信します。その結果、 通信で使用している周波数と他方の電波の周波数が等しい場合、干渉を起こしてしまいます。 また送信のときは、指向性が低いと通信相手のいない方向へ電波を送出するために、無駄な電力を使ってしまいます。 したがって、固定通信であるために、「鋭い指向性」が求められるのです。
次は、交差偏波識別度です。 交差偏波識別度とは、異なる偏波を識別できる度合いです。偏波については、選択肢④の解説で説明します。
選択肢②は、正しい文章です。
アンテナの開口効率は、 アンテナの開口面積が同一である任意のアンテナの利得と理想的なアンテナの利得との比により求めることができる。
この問題文には暗黙の前提があります。それは、開口面アンテナがテーマとなっている点です。 これは、「開口効率」や「開口面積」という言葉が使われていることからわかります。 他のタイプでのアンテナ、たとえば線状アンテナでは、これらの言葉は使われません。
開口面アンテナの代表例のひとつは、バラボラアンテナです。バラボラアンテナをイメージすれば、 「開口」のニュアンスも通じると思います。
開口面アンテナは、開口面の面積が大きいほど、多くの電波を受信できます。しかし、開口面すべてが 効率的に使われているわけではありません。たとえば、通常のパラボラアンテナでは、開口面へ電波を放射する放射器が、 開口面の前に置かれます。そのため、開口面の一部に、放射器によって電波の影ができてしまいます。 このように、これら諸々の原因で、開口面のすべてが十分に機能しているわけではありません。 そこで実効的な開口面積が考えられました。これが「実開口面積」です。実開口面積に対して、 開口面の機械的な面積は、単に「開口面積」と呼ばれます。
問題文にある「開口効率」とは、実開口面積÷開口面積 です。実開口面積をAe、 開口面積をAすると、開口効率ηは次の式で求められます。
η = Ae / A
次は、開口アンテナにおける利得と実開口面積の関係です。アンテナと測定点の間の距離および電波の周波数が同じならば、 利得と実開口面積は比例します。詳しくは、選択肢③の解説の式(3)で説明します。
問題文にある「理想的なアンテナの利得」ですが、これは実開口面積が開口面積に等しいアンテナの利得を意味します。 したがって、任意のアンテナの利得をGeとすると、Geは実開口面積Aeに比例します。 また、理想的なアンテナの利得をGとすると、Gは開口面積Aに比例します。 これは、理想的なアンテナの実開口面積は開口面積に等しいからです。よって、式(1)より、
η = Ae / A = Ge / G
したがって、開口効率ηは、任意のアンテナの利得Geと理想的なアンテナの利得Gとの比により求めることができます。
選択肢③は、誤った文章です。正しくは、以下のようになります。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
アンテナの利得は、 使用する無線周波数が一定の条件ではアンテナの開口面積及び開口効率に比例する。 また、開口面積及び開口効率が一定の条件では使用する無線周波数の2乗に比例する。
開口面アンテナの利得Gは、実開口面積Ae、開口面積A、開口効率η、波長λと、以下の関係があります。
G = ( 4 π / λ2 ) Ae
= ( 4 π / λ2 ) η A
この式には、波長は入っていますが、周波数は入っていません。しかし、波長λと周波数fの間には、 以下の関係があります。ここで、cは光速です。
λ f = c
したがって、式(4)を使うと、式(3)は、次のように表せます。
G = ( 4 π f2 / c2 ) Ae
= ( 4 π f2 / c2 ) η A
まず、「無線周波数が一定の条件ではアンテナの開口面積及び開口効率の2乗に比例する」について考えます。 式(5)において、無線周波数fが一定とすると、開口面積Aと開口効率η以外は定数と見なせます。 そこで、比例関係だけを取り出してみます。記号"∝"は比例関係を示す記号です。
G ∝ Ae
∝ η A
したがって、「開口面積及び開口効率の2乗に比例」ではなく、 正しくは「開口面積及び開口効率に比例」です。
次は、「開口面積及び開口効率が一定の条件では使用する無線周波数に比例」について考えます。 今度は、式(5)において、開口面積A及び開口効率ηが一定とすると、無線周波数f以外は定数と見なせます。 同様にして、比例関係だけを取り出します。
G ∝ f2
したがって、「無線周波数に比例」ではなく、 正しくは「無線周波数の2乗に比例」です。
式(3)のようにπが入った式は、数値を計算する問題として出題されるのは、稀です。 少なくても、この10年間、そのような出題はありません。このような式は、上比例関係や反比例の関係、 または増減関係を問う問題として、よく出題されます。
選択肢④は、正しい文章です。
交差偏波識別度は、アンテナにおいて、 直線偏波における垂直偏波と水平偏波、 あるいは円偏波における右旋円偏波と左旋円偏波を識別し得る能力を表すとされている。
交差偏波識別度とは、異なる偏波を識別できる度合いです。 ここで偏波とは、電波の電界が特定の方向へ向いていることです。 この電界がつくる面は、偏波面と呼ばれます。
偏波は、直線偏波と円偏波に分類されます。直線偏波とは、偏波面が変化しない偏波です。 これに対して円偏波は、偏波面が回転する偏波です。
直線偏波は、さらに水平偏波と垂直偏波に分類されます。水平偏波は、大地に対して水平な偏波です。 水平偏波の代表例のひとつに、テレビの電波があります。だから、テレビアンテナは水平型の構造をしています。 水平偏波に対して垂直偏波は、大地に対して垂直な偏波です。水平偏波の代表例のひとつに、携帯電話などの電波があります。 これは基地局のスペースの関係で、アンテナを垂直型にせざるを得ないためです。
一方、円偏波は回転の向きにより、右旋円偏波と左旋円偏波に分類されます。
このように、直線偏波も円偏波も、2つの異なる偏波があります。理想的には、2つの偏波は分離して扱えます。 例えば、水平偏波の電波と垂直偏波の電波に異なる信号を伝送させる多重通信も可能です。また、 隣接する通信エリアの境界での干渉を避けるため、水平偏波のエリアと垂直偏波のエリアが隣接されることもあります。
しかし現実は理想と異なり、一方の偏波の成分による他方の偏波へ影響はゼロとはなりません。その影響の小ささを示す指標が、 交差偏波識別度です。 交差偏波識別度は、 これらの水平偏波と垂直偏波、または右旋円偏波と左旋円偏波を識別できる度合いです。 交差偏波識別度が大きいほど、他方の偏波の影響を受けにくくなります。
公式の基本的なものは、正確に記憶するしかありません。今回の問題の範囲ならば、 式(1)や式(3)が該当します。
扱いが悩ましいのは、式(5)のような関係式です。この式は、 式(3)と式(4)から、導き出すことができます。 数式の計算に慣れているならば、あまり苦にならずに式(5)を 導き出せると思います。しかし、受験される方々の中には、数式の計算に不慣れな方も いらっしゃると思います。数式の計算に不慣れな場合には、式(5)のような式は、 公式として覚えてください。つまり、数式計算の代わりに、暗記をとる選択です。
余力があるならば、簡単なレベルの式の導出は慣れていただく方が無難です。 そのほうが、多少捻った問題が出てきても、対応ができるからです。 多少の捻りとは、今回の出題で言えば、利得と波長の関係ではなく、 利得と周波数の関係が問われた点です。 利得と波長の関係ならば、式(3)から直接的に答えられるところです。 しかし、利得と周波数の関係を問うことで式(3)から直接的に答が出ないように、 捻りが入れられています。式(5)を知っているだけでは、答えられないようにしてあります。
式の導出は、ある程度できたほうが有利です。しかし、式の導出か、公式として覚えるかの最終的な判断は、自分のスタイルに合わせて選ぶべきです。 この試験の合格ラインは、60 %です。ある程度の失点は、許容できるはずです。 慣れないスタイルで臨むよりも、自分のスタイルで自信を持って臨み、 点数の取りこぼしを防ぐほうが、合格へ近づくと考えます。
このページの図は、日本理工出版会刊「伝送交換設備及び設備管理-専門科目(伝送・交換)にも対応」の一部を、 著作者と出版社の許諾を得て使用しています。