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2016年 1月 22日
平成27年度第1回(2015年7月実施)電気通信主任技術者試験の「伝送」、「交換」、「データ通信」の 問4 (2)(ⅱ)の過去問です。この3科目では、問3~問5の問題が共通となっています。 つまり、科目固有の問題は問1と問2だけで、残りは3科目共通の問題です。もし、「伝送」と 「交換」のどちらを選択するか迷っていて、とりあえず過去問を見ようというときは、 問1と問2だけを比べれば十分ということです。
話を元に戻しまして、今回は3科目共通の過去問です。
出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(キ)に適した番号を選ぶ問題です。
コアネットワーク伝送技術について述べた次の文章のうち、誤っているものは、(キ)である。
① | OTNにおいて、 波長単位でノード間に割り当てられた論理的な信号の通路はOCh(Optical Channel)といわれ、エンド・ツー・エンドでの管理が可能である。OChのフレーム構造は、 クライアント信号が収容されるペイロードと、OChの保守・運用情報を扱うオーバヘッドで構成される。 |
② | 他事業者のSDH/SONET信号をWDM装置に収容する際に、 STMフレームをトランスペアレントに転送することが求められる場合には、従来は、 SOHで行っていた故障点評定や切替機能を、WDMレイヤなどにおいて実現する必要がある。 |
③ | ノード装置にOXCやROADMを使用するネットワークにおいては、 光スイッチを用いて回線設定を行うことにより伝送容量の大容量化にも対応可能となる。 光スイッチには、MEMS型光スイッチ、平面導波路型スイッチなどがある。 |
④ | 多様なクライアント信号を、 SDHやOTNのペイロードにマッピングする技術としてGFPが標準化されている。 GFPフレームは、コアヘッダと固定長のペイロード領域により構成され、 クライアント信号は固定長のペイロード領域に収容される。 |
誤っているものは、④です。GFPにおいて、クライアント信号が収容されるペイロード領域は、 固定長ではなく可変長です。
SDHやOTNに関する出題です。
SDHやOTNは、専門的能力の「伝送」の問1~問2でよく出題される話題です。 3科目共通部分の問3~問5で、SDHやOTNが出題されるのは、珍しいケースです。なお、 共通科目の「伝送交換設備及び設備管理」では、2005年から2007年は出題が続きましたが、その後は2010年、 2012年というペースです。2013年以降は10GbEのWAN PHY関連でSDHが出てきただけです。
出題頻度が低いため、「伝送」を選択されている受験者の方を除けば、難易度が高い問題です。
選択肢①は、正しい文章です。
OTNにおいて、 波長単位でノード間に割り当てられた論理的な信号の通路はOCh(Optical Channel)といわれ、エンド・ツー・エンドでの管理が可能である。OChのフレーム構造は、 クライアント信号が収容されるペイロードと、OChの保守・運用情報を扱うオーバヘッドで構成される。
選択肢①にある用語を整理します。OTNは、 WDM(波長分割多重)技術を活用した代表的なフォトニックネットワークです。 ここでフォトニックネットワークとは、ルーティングやスイッチングなどの処理を、 光信号のままで処理するネットワークのことです。非フォトニックのネットワークでは、 光信号を電気信号に変えてルーティングやスイッチングを行っているため、 遅延が大きくなるなどのデメリットが発生します。 OCh(光チャネル)とは、波長単位でノード間に割り当てられる光信号の論理的な通路のことです。 WDMを使っているため、波長単位で通信路を扱うしくみが必要となりますが、このしくみがOChです。 エンドツーエンドとは、ニュアンスとしては端から端まで、具体的にはOTNの入口から出口までです。 なお、同じエンドツーエンドでも、イーサネットの場合は、端末間を意味します。
選択肢②は、正しい文章です。
他事業者のSDH/SONET信号をWDM装置に収容する際に、 STMフレームをトランスペアレントに転送することが求められる場合には、従来は、 SOHで行っていた故障点評定や切替機能を、WDMレイヤなどにおいて実現する必要がある。
選択肢②で目に付くキーワードは、トランスペアレントかと思います。トランスペアレントとは、 「透過的」の意味です。この問題文の場合は、「SDHとOTNの違いを意識することなく同じように使える」というニュアンスです。 SDH側からOTNを同じように使えるようにするためは、SDHを利用する側が必要とする機能を、OTNが提供する必要があります。 これらの機能が、故障点評定や切替機能です。
SOHとは、セクションオーバーヘッド、SDHフレームにおける制御情報です。一般的な フレームにおけるヘッダ情報に相当します。SDHのフレームは9行構成になっているため、 制御情報がフレームの先頭部に集まっていません。そのため「ヘッダ」とは呼べないのです。
WDMレイヤについては、寡聞にして具体的に何を示しているのかは判明しておりません。 OTNの階層モデルは、上からOCh(光チャネル)、OMS(光多重セクション)、 OTS(光中継セクション)の3階層です。WDMレイヤはOTNの階層モデルの中にないので、OTNにおける具体的な階層を指すものではなく、 ベースとなるWDM機能を実装する部分を示している言葉と推測されます。
選択肢③は、正しい文章です。
ノード装置にOXCやROADMを使用するネットワークにおいては、 光スイッチを用いて回線設定を行うことにより伝送容量の大容量化にも対応可能となる。 光スイッチには、MEMS型光スイッチ、平面導波路型スイッチなどがある。
選択肢③のキーワードは、OXCとOADMです。まずOTNのネットワークのイメージです。
OXCは、光クロスコネクト、光信号を電気信号に変換せずに経路変更を行う中継装置です。 OXCは、選択肢①の説明にあったフォトニックネットワークの肝の部分です。 ちなみにOXCのフルスペルは、 "Optical Cross Connect"で、"X"は一文字で"Cross"です。
OADMは、光アドドロップマルチプレクサ、直訳すると光挿入・除去多重装置です。 WDMで多重化された網において、 任意の波長を入出力する装置です。リングに対して、光信号の挿入や除去を行うことから、この名称が付いています。 OADMは、WDMベースのコアネットワークならではの機能です。
;光スイッチは、 光信号のままでスイッチ処理を行う光デバイスです。 光信号と電気信号の変換を行わないので、高速なスイッチ処理が可能です。
選択肢④は、誤った文章です。正しくは、下の文章のようになります。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
多様なクライアント信号を、 SDHやOTNのペイロードにマッピングする技術としてGFPが標準化されている。 GFPフレームは、コアヘッダと可変長のペイロード領域により構成され、 クライアント信号は可変長のペイロード領域に収容される。
選択肢④のキーワードは、GFPです。GFPは、"Generic Framing Procedure"の略、 Ethernet over SDHの技術のひとつです。 つまり、SDHを使ってイーサネットフレームを伝送するための技術です。イーサネットフレームが可変長なので、 GFPのフレーム構造を知らなくても、「固定長」が怪しいと感じ取ることは可能です。さらに、たとえGFPを知らなくても 「多様なクライアント信号」を「可変長データも含めた信号」と意味を取れば、「固定長」は怪しげです。 このように、少なくても選択肢④を正解(誤った記述の選択肢)の候補にはできるはずです。
実際にGFPのフレームは、下のように可変長です。なお、エラー検出用のFCSはオプションになっています。
下は、選択肢④をアレンジした文章です。この文章は正しい文章です。
多様なクライアント信号を、 SDHやOTNのペイロードにマッピングする技術としてGFPが標準化されている。 GFPフレームは、コアヘッダとペイロード領域により構成され、 クライアント信号はペイロード領域に収容される。
これは「固定的な」を除いた文章です。これだけで正しい文章となります。 元の選択肢④は、文章全体としては、ほぼ正しいのですが、 修飾語の部分で誤りが仕込まれているケースです。
こんなパターンもあります。下は、選択肢②をアレンジした文章です。
他事業者のSDH/SONET信号をWDM装置に収容する際に、 STMフレームをトランスペアレントに転送することが求められる場合には、従来は、 SOHで行っていた故障点評定や優先制御を、WDMレイヤなどにおいて実現する必要がある。
これは「優先制御」が誤りです。これも文章全体としては、ほぼ正しいのですが、 機能の具体例が誤っているパターンです。もし「SOHで行っていた故障点評定や優先制御」が、 具体例がない表現、たとえば「SOHが必要とする機能」であれば、正しい文章になります。
間違い探し問題では、これらのように修飾語や例示など、文章の大意から離れた部分での出題があります。 過去問の選択肢を読み込む際には、このような細部、文章の中の枝葉の部分まで読み込んでください。
誤った記述の選択肢については、深く調べられる傾向があります。逆に言えば、 正しい選択肢の文章については、暗記するほうへ注力し、読み込みが浅くなる傾向があります。
たとえば、選択肢③の文章です。「光スイッチ」や、 その具体例である「MEMS型光スイッチ」や「平面導波路型スイッチ」についても、振り返りを行っているか、です。 たとえば、それぞれの光スイッチは、どのような分類に属するか、長短所は何か、などです。
正しい選択肢を掘り下げることにより、上で説明した「枝葉」に対する感度が高くなります。 また、ほかの情報と関連づけることにより、記憶に残りやすくなります。暗記は、情報量を減らすより、 情報量を増やしてでも関連付けをしたほうが効率的です。
主任技術者試験の問題は、同じような問題でも、多少捻りがはっているケースが多く見られます。 このような問題での取りこぼしがないように、正しい選択肢も掘り下げた、一歩深い学習を進めてください。
このページの図は、日本理工出版会刊「伝送交換設備及び設備管理-専門科目(伝送・交換)にも対応」の一部を、 著作者と出版社の許諾を得て使用しています。