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2017年 3月 3日
平成28年度第2回(2017年1月実施)電気通信主任技術者試験の「法規」の問1 (1)の過去問です。
法規の出題対象の条文は、比較的固定しています。そのため、過去問にない条文が出題されるのは、珍しいことです。 その珍しいことが、平成28年度第1回の試験で起きました。その条文は、電気通信事業法 第四十四条の三、 電気通信統括管理者に関する規定です。 そして、この条文が続けて平成28年度第2回でも出題されたのが、今回の解説の問題です。
電気通信設備統括管理者は、制度自体が新たに制定されたものです。 これは条文の番号からも、明らかです。 電気通信設備統括管理者に関する規定は、第四十四条の三から、第四十四条の五までです。 直前の第四十四条の二は管理規程についての規定、直後の第四十五条は電気通信主任技術者についての規定です。 つまり、電気通信設備統括管理者に関する規定は、第四十四条の二と第四十五条の間に、後から挿入されたものです。
出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(ア)に適した番号を選ぶ問題です。
電気通信事業法に規定する「電気通信設備統括管理者等の義務」 又は「電気通信主任技術者等の義務」について述べた次の文章のうち、 誤っているものは、(ア)である。
① | 電気通信設備統括管理者は、誠実にその職務を行わなければならない。 |
② | 電気通信事業者は、電気通信役務の確実かつ安定的な提供の確保に関し、 電気通信設備統括管理者のその職務を行う上での意見を尊重しなければならない。 |
③ | 電気通信主任技術者は、事業用電気通信設備の工事、 維持及び運用に関する事項の監督の職務を誠実に行わなければならない。 |
④ | 電気通信事業者は、電気通信主任技術者に対し、 その専門的知識を向上するために必要な機会を与えなければならない。 |
⑤ | 電気通信事業者は、電気通信主任技術者のその職務を行う事業場における事業用電気通信設備の工事、 維持又は運用に関する助言を尊重しなければならず、事業用電気通信設備の工事、 維持又は運用に従事する者は、電気通信主任技術者がその職務を行うため必要であると認めてする指示に従わなければならない。 |
(ア):誤っている選択肢は、④です。
電気通信事業法からの出題です。
①と②は、電気通信設備統括管理者に関する出題です。そして③~⑤は、電気通信主任技術者に関する出題です。
①と②のテーマである「電気通信設備統括管理者」ですが、平成28年度の試験に突然登場したように見えますが、 電気通信主任技術者試験を俯瞰的に見ると、これが出題される流れはありました。
「電気通信設備統括管理者」関連の出題の始まりは、「法規」ではなく、「伝送交換設備及び設備管理」です。 平成26年度第1回(2014年7月)の問4 (1)の問題でした。 この問題は、総務省から2013年10月に出された「多様化・複雑化する電気通信事故の防止の在り方に関する検討会 報告書」からの出題でした。
ただし、このときの出題には、「電気通信設備統括管理者」は、まだ登場していません。 しかし、この報告書における電気通信事故の防止のための提言のひとつに、以下のような記述がありました。
電気通信事業でも、 電気通信主任技術者をはじめとした現場レベルの取組が重要であることに引き続き変わりはないが、 これら現場の取組が有効に機能するためには、社内の部門間や社外を含めた全体調整、 事故防止に必要な設備投資を含めた安全・信頼性確保の方針・取組・体制などについて、 経営陣がこれまで以上に責任を持って主体的に関与することが必要となっているところである。
このため、設備管理の複雑化に対応し、設備管理体制の充実・強化を図る観点から、 現場レベルの責任者である電気通信主任技術者に加え、 経営レベルの安全管理責任者(電気通信安全統括管理者)の設置を義務付けることが必要である。
これにより、経営・現場レベル双方で設備管理の責任者を明確にした上で、 両者が連携して「管理規程」を基盤としたPDCAサイクルを機能させることによって、 安全・信頼性の自律的・継続的確保が可能な環境が整備されると考えられる。
電気通信主任技術者は、現場レベルでの責任者です。しかし、昨今の多様化・複雑化する電気通信事故に対応していくためには、 現場の取り組みだけでは、限界があります。現場の取り組みに加え、経営レベルの参画が欠かせません。 そのために、経営レベルの責任者である電気通信安全統括管理者の選任を義務付ける、という流れです。
総務省は、この報告会の提言を、電気通信事業法の改正で採り入れました。今回の改正のポイントは、 大きくは、以下の4点です。
ご参考で、電気通信事業法における事故防止の規律の概要を、 下の図に示します。網掛けになっている部分が、改正により変更になった部分です。
電気通信設備統括管理者は、電気通信事業法 第四十四条の三 第一項で、以下のように規定されています。
(電気通信設備統括管理者)
第四十四条の三 第一項 電気通信事業者は、第四十四条第二項第一号から第三号までに掲げる事項に関する業務を統括管理させるため、 事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にあり、かつ、 電気通信設備の管理に関する一定の実務の経験その他の総務省令で定める要件を備える者のうちから、 総務省令で定めるところにより、電気通信設備統括管理者を選任しなければならない。
ここで「第四十四条第二項第一号から第三号までに掲げる事項」とは、 管理規程において定めるべき事項として規定されている事項です。具体的には、以下の3点です。
つまり、電気通信設備統括管理者選任の目的は、「事業用電気通信設備の管理の方針、体制、 方法に関する業務を統括管理させるため」です。
また、「電気通信設備の管理に関する一定の実務の経験その他の総務省令で定める要件」は、 電気通信事業法 第二十九条の二 第一項で規定されています。 ここでは、管理や監督の業務の経験年数などが規定されています。
選択肢①は、正しい記述です。電気通信事業法 第四十四条の四 第一項からの出題です。
(電気通信設備統括管理者等の義務)
第四十四条の四 第一項
電気通信設備統括管理者は、誠実にその職務を行わなければならない。
選択肢②は、正しい記述です。電気通信事業法 第四十四条の四 第二項からの出題です。
(電気通信設備統括管理者等の義務)
第四十四条の四 第二項 電気通信事業者は、電気通信役務の確実かつ安定的な提供の確保に関し、 電気通信設備統括管理者のその職務を行う上での意見を尊重しなければならない。
今回の出題では正しい形ですが、もし誤った形での出題になると、 「電気通信役務の確実かつ安定的な提供の確保」に誤りが仕込まれそうです。 このフレーズですが、 電気通信事業法 第四十四条 第二項にあるフレーズと同じです。 法律の条文では、ある条文のフレーズが、そのまま他の条文で使われることがありがちです。 条文を整理する際には、そのようなフレーズのつながりにも注目してください。
選択肢③からは、電気通信主任技術者についての出題です。 選択肢の解説の前に、電気通信主任技術者について整理します。
電気通信主任技術者は、電気通信事業法 第四十五条 第一項で、以下のように規定されています。
(電気通信主任技術者)
第四十五条 第一項 電気通信事業者は、事業用電気通信設備の工事、維持及び運用に関し総務省令で定める事項を監督させるため、 総務省令で定めるところにより、電気通信主任技術者資格者証の交付を受けている者のうちから、 電気通信主任技術者を選任しなければならない。ただし、 その事業用電気通信設備が小規模である場合その他の総務省令で定める場合は、この限りでない。
ここで「事業用電気通信設備の工事、維持及び運用に関し総務省令で定める事項」は、 電気通信主任技術者規則 第三条 第四項で、以下の事項が規定されています。
電気通信主任技術者規則を電気通信設備統括管理者と比較してみます。
まず、選任の目的です。 電気通信設備統括管理者の選任の目的は、「事業用電気通信設備の管理の方針、体制、 方法に関する業務を統括管理させるため」でした。これに対して、 電気通信主任技術者の選任の目的は、「事業用電気通信設備の工事、 維持及び運用に関し総務省令で定める事項を監督させるため」です。
次は、選任できる対象者です。電気通信設備統括管理者は、 電気通信設備の管理に関する一定の実務の経験などの要件を満たす者から選任されます。 つまり、電気通信設備統括管理者になるためは、試験も資格者証も必要ありませんが、 実務の経験などが定められた要件を満たさなくてはなりません。 これに対して電気通信主任技術者は、電気通信主任技術者資格者証の交付を受けている者から、 選任されます。資格者証さえ持っていれば、選任することができるのです。
この「資格者証さえ持っていれば、電気通信主任技術者に選任できる」は、 制度としては脆弱に見えます。資格者証を所持していても、 現場の監督をするためのスキルを有しているとは限らないからです。
この点を、補完するのが講習の制度です。 講習については、電気通信事業法 第四十九条 第四項で規定されています。 (下の条文では、読みやすくするために、条文からの補足説明の除去、および読み替えを行っています。)
(電気通信主任技術者等の義務)
第四十九条 第四項 電気通信事業者は、総務省令で定める期間ごとに、電気通信主任技術者に、 登録講習機関が行う事業用電気通信設備の工事、 維持及び運用に関する事項の監督に関する講習を受けさせなければならない。
この講習の制度により、電気通信主任技術者による監督が支障なく行われるように図られています。
選択肢③は、正しい記述です。電気通信事業法 第四十九条 第一項からの出題です。
(電気通信主任技術者等の義務)
第四十九条 第一項 電気通信主任技術者は、事業用電気通信設備の工事、 維持及び運用に関する事項の監督の職務を誠実に行わなければならない。
選択肢④は、誤った記述です。電気通信事業法 第四十九条 第二項からの出題です。 正しい条文は、以下のようになります。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
(電気通信主任技術者等の義務)
第四十九条 第二項 電気通信事業者は、電気通信主任技術者に対し、その職務の執行に必要な権限を与えなければならない。
この背景には、設備管理の専門化や細分化、設備管理の縦割り化があります。 このような状況では、限られた範囲の権限では、事故の防止に効果的な監督は困難です。 そのため、組織横断的な権限を、必要に応じて付与するように規定しています。
なお、この問題は、講習の制度を思い出しても、誤りと推測できるはずです。 講習の受講という強制的な制度があるにも関わらず、 元の文章にある「専門的知識を向上するために必要な機会」という任意性の高い制度があるのは蛇足的です。 電気通信主任技術者の制度の中で、整合性のなさが感じられます。
選択肢⑤は、正しい記述です。電気通信事業法 第四十九条 第三項からの出題です。
(電気通信主任技術者等の義務)
第四十九条 第三項 電気通信事業者は、電気通信主任技術者のその職務を行う事業場における事業用電気通信設備の工事、 維持又は運用に関する助言を尊重しなければならず、事業用電気通信設備の工事、維持又は運用に従事する者は、 電気通信主任技術者がその職務を行うため必要であると認めてする指示に従わなければならない。
今回のテーマは、電気通信設備統括管理者と電気通信主任技術者でした。 このようなまとまったテーマのものは、個々の条文を覚えるまえに、制度としての輪郭を捉えると、効率的に学習を進められます。
さらに心がけていただきたいのは、制度の背景の把握です。 制度の中には、制定当時の常識からは容易に知ることができても、 今となっては知ることが難しいものが多々あります。 しかし最近は、制度の新設や変更に際して、 検討会の実施やその結果に対する意見や提言の公募が行なわれることが多くなりました。 電気通信設備統括管理者に関しては、まさしくそのステップを経ていました。 電気通信事業法の改正に際しても、その意図することを説明する資料を公開しています。 そのような資料にあらかじめ目を通しておけば、条文もかなり読みやすくなります。
法令の個々の条文は、何かを実現するための手段です。 法令で実現しようとしている制度や、その制度の背景を理解することは、 個々の条文を有機的に結びつけて理解することにつながるはずです。