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2017年 12月 18日
平成28年度第2回(2017年1月実施)電気通信主任技術者試験の「伝送」の問2 (2)の過去問です。
出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(オ)に適した番号を選ぶ問題です。
光変調方式又は光変調器について述べた次の文章のうち、正しいものは、(オ)である。
① | 光信号を変調する方式は直接変調と外部変調に大別され、 駆動回路でLDにバイアス電流と高周波の変調信号電流を印加する方式は外部変調に分類される。 |
② | 主な外部変調器には、LiNbO3の電気光学効果を利用したLN変調器と、 半導体の電界吸収効果を利用したEA変調器がある。 |
③ | LN変調器は、電気光学結晶に電圧を印加することにより導波路の屈折率を変化させて変調する方式を採っており、 位相変調には用いられるが、強度変調には用いられない。 |
④ | EA変調器は、半導体に逆電圧を印加することにより光吸収の割合を変化させ、 信号光が増幅される状態を作ることにより動作する。EA変調器は、一般に、LN変調器と比較して大型である。 |
(オ):正しい選択肢は、②です。
光変調方式や光変調器は、比較的出題頻度の高い問題です。 出題元の科目は専門的能力の伝送ですが、 伝送交換設備および設備管理でも出題されてきた問題です。 (余談ですが、工事担任者試験でも出題されています。)
光変調方式では、直接変調と外部変調、そして外部変調における動作原理が、ポイントになります。 光変調器は、外部変調の動作原理との関連付けが主なポイントです。
一般的なデジタル変調における基本的な変調方式には、ASK、FSK、PSKがあります。 先頭の1文字が変調原理を示しています。 ASKは振幅(Amplitude)、FSKは周波数(Frequency)、PSKは位相(Phase)を、それぞれ使って変調を行います。
光変調の場合も変調原理の3点セット、振幅、周波数、位相は、変わりません。 しかし呼び名が変わるものがあります。振幅を使った変調は、ASKではなく、IM(強度変調)になります。 これは、光信号の場合は、「振幅」とは言わずに「強度」ということが多いからです。ASKとIMは、名前が異なるだけで、変調原理は同じです。
また、変調率が100%のIMやASKは、特にOOK(オン・オフ・キーキング)と呼ばれます。 変調率とは、最大振幅をa、最小振幅をbとしたときの、(a-b)/(a+b)の値です。 平べったく言えば、変調率100%とは、最小振幅が0になるIMやASKのことです。 たとえば、ビットの値が1のときは一定の信号レベル、ビットの値が0のときはレベル0にする変調が、OOKに該当します。 字面どおりに、オンとオフを使った変調です。
光変調は、OOKが最もよく使われます。OOKの実装方式は、直接変調方式と外部変調方式に分類されます。 なお、後で紹介しますが、OOK以外でも使える方式も混じっています。が、ここはイメージしやすくするために、 OOK前提で話しを進めます。直接変調と外部変調の違いは、OOKにおける光のオンとオフを切り替える方式の違いです。
まず、直接変調です。直接変調は、光源となるLEDやレーザダイオードなどの発光素子で、 オンとオフを切り替える方式です。イメージ的には、光源の電球の電源スイッチを、パチパチと高速で操作する感じです。 この方式は、原理が単純なため、機器構成も単純になります。そのため小型化が容易という長所があります。 その反面、チャーピングによる信号の劣化が発生する欠点があります。 チャーピングとは、高速で変調した場合に光の波長が変動する現象です。 このチャーピングにより、数GHz以上での直接変調では、信号の劣化が激しくなります。 したがって、安価な直接変調では、10ギガビットイーサネットへの適用が難しいのです。
直接変調の弱点であるチャーピングの影響を大きく抑える方式が、外部変調です。 イメージ的には、外部変調では光源の電球を点けっぱなしにして、 何らかの手段で途中で光線を通したり遮ったりする感じです。 そして、この「何らかの手段」が次の2つです。
細かいことを言えば、もう1つ、音響光学効果というのがありますが、少なくても2005年以降は出題実績はありません。 (2004年に出題アリではなく、それ以前は不明です。) そのため、音響光学効果の説明は割愛いたします。
まず、電気光学効果を使った外部変調です。電気光学効果は、媒体へ加える電界の強度を変化させると、 物質の屈折率が変化する現象です。屈折率が変化するということは、光の伝播速度が変化するということです。 電気光学効果にいては、押さえるべきポイントが2点あります。 1点目は、電気光学効果の別名です。電気光学効果は、ポッケルス効果とも呼ばれます。 厳密には、ポッケルス効果は電界の強さと屈折率の変化が比例する場合に限定されますが、試験対策的には同義、単なる別名と解釈してください。 2点目は、電気光学効果は、IM(強度変調)だけでなく、PSK(位相変調)にも使える点です。 これは、電気光学効果が光の伝播速度を変えられることから、容易に想像できるかと思います。
次に、電界吸収効果を使った外部変調です。 電界吸収効果は、媒体へ加える電界の強度を変化させると、 物質の光の吸収量が変化する現象です。電気光学効果に比べると、装置構成を単純化できる点が特長です。 その反面、チャーピングが除去されずに残る欠点があります。
主な光変調器には、LN変調器とEA変調器があります。
LN変調器は、電気光学効果を利用した外部変調器です。名称の"LN"は、 電気光学結晶として使われるLiNbO3(ニオブ酸リチウム)に由来します。
EA変調器は、電界吸収効果を利用した外部変調器です。名称の"EA"は、 電界吸収を意味する"Electro-Absorption"に由来します。 LN変調器と比較すると、装置構成が単純なため、小型化が容易な点が特長です。 しかし、チャーピングが除去できずに残ってしまうので、高速化には限界があります。 そのため、主に100km以下の2.5〔Gbit/s〕以下の中距離伝送システムで利用されています。
選択肢①は、誤った文章です。アンダーライン部分が、誤っている部分です。
光信号を変調する方式は直接変調と外部変調に大別され、 駆動回路でLDにバイアス電流と高周波の変調信号電流を印加する方式は外部変調に分類される。
光源となるLD(レーザダイオード)に印加する電流を変化させれは、LDの発光状態が変化します。 したがって、この文章は、直接変調の説明です。
選択肢②は、正しい文章です。
主な外部変調器には、LiNbO3の電気光学効果を利用したLN変調器と、 半導体の電界吸収効果を利用したEA変調器がある。
どちらが電気光学効果か電界吸収効果か、混乱しやすいところです。 混乱を避ける策のひとつに、EA変調器の"A"が、"Absorption"(吸収)であることまで覚えてしまう手があります。 覚え方はいろいろですが、LN変調器は電気光学効果で屈折率が変化、EA変調器は電界吸収効果で吸収率が変化という点は、 忘れないようにしてください。
選択肢③は、誤った文章です。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
LN変調器は、電気光学結晶に電圧を印加することにより導波路の屈折率を変化させて変調する方式を採っており、 位相変調には用いられるが、強度変調には用いられない。
LN変調器は、電界により物質の屈折率を変化させる電気光学効果を使っています。 屈折率の変化は、光の伝播速度の変化であり、波長の変化でもあります。
LN変調器で、OOK(オン・オフ・キーキング)を実装する場合は、変調器の中で光をY分岐させ、 位相差をコントロールして合波します。オンの場合は位相差を波長の整数倍にします。 そして、オフの場合は、位相差を(整数+1/2)倍にすることで、合波したときに光が相殺されるようにします。
OOKでの実装では、Y分岐させた2つの光の位相差をコントロールしています。 見方を変えれば、電気光学効果によって位相そのもののコントロールも可能であることは、容易に想像できます。 したがって、電気光学効果による位相変調(PSK)も可能です。
選択肢は、誤った文章です。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
EA変調器は、半導体に逆電圧を印加することにより光吸収の割合を変化させ、 信号光が増幅される状態を作ることにより動作する。EA変調器は、 一般に、LN変調器と比較して大型である。
先に述べたように、EA変調器はLN変調器に比べ、装置構成が簡単なため小型になります。
なお、1行目の「逆電圧」も表現としては微妙です。電界吸収効果は、電界によってエネルギー準位を変化させることで、 光の吸収量を変えます。対象がPN接合をした半導体ではないので、「逆電圧」という表現は不適切のように思えます。しかし、 私が寡聞にして知らないだけで、ダイオードの「逆電圧」とは別の意味の専門用語が存在するのかも知れません。 (「存在しないことの証明」は、「悪魔の証明」と言われているくらいでして、難しいのです。)
この選択肢③と似た出題が、平成24年度第1回(2012年7月実施)に出題されています。 (5年前の過去問になると、チェックされている人も少ないのではないでしょうか。) アンダーライン部分が、誤っている部分です。
LN変調器は、電気光学結晶に電圧を印加することにより導波路の屈折率を変化させて変調する方式を採っており、 周波数変調には用いられるが、位相変調には用いられない。
LN変調器と周波数変調の関係は、あまり語られることがないので、少々戸惑ってしまう問題です。
電気光学効果は、媒体へ加える電界の強度を変化させると、物質の屈折率が変化する現象です。 電気光学効果の原理を考えれば、周波数をコントロールすることができないのは明らかです。 したがって、周波数変調はできません。よって、 正しくは「位相変調には用いられるが、周波数変調には用いられない」です。
おそらく過去問を単純に学習するだけでは、選択肢③は「強度変調には用いられない」が誤りで終わってしまうのではないでしょうか。 しかし、一歩踏み込んで、変調原理まで押さえておけば、強度変調だけでなく位相変調にも対応できることが推測できます。 また、周波数変調に対応できないことも推測できます。 そのため、位相変調や周波数変調を題材とする問題が出たときも解答できます。
もし、直接変調や電界吸収効果を使う外部変調が、「位相変調に用いられる」とあった場合は、どうでしょうか。 直接変調は発光素子への印加電圧を変えるだけですから、位相のコントロールはできません。 電界吸収効果は光の吸収量が変わるだけですから、位相のコントロールには使えません。 このように、どちらも位相変調に用いられないことが、原理から推測できるのです。
電気通信主任技術者試験は、過去問が同じ形ではなく多少捻りが入って再登場する出題が多く見られます。 そのような捻りに柔軟に対応できるように、できることなら、一歩踏み込んで原理まで押さえることをお勧めします。