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2018年 5月 21日
平成28年度第1回(2016年7月実施)電気通信主任技術者試験の「交換」の問2(1)の文章題の過去問です。
SIPとISDNの双方の知識も問われる出題です。「交換」ならではの問題です。
出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(ア)~(エ)に適した番号を選ぶ問題です。
SIPとISUPのインタワークには、一般に、MGC(Media Gateway Controller)が用いられ、発呼時におけるインタワークで必要とされるMGCの動作は、SIP側から発呼したものであるか、 ISUP側から発呼したものであるかで異なる。
SIP発信-ISUP着信の接続形態の基本接続シーケンスにおいて、SIP側からINVITEリクエストを受信したMGCは、 INVITEリクエストの内容が処理継続可能である場合には、ISUP側へ(ア)メッセージを送出する。 (ア)メッセージが着信側の交換機まで到達した場合には、 着信側交換機からACMメッセージが送信される。 ACMメッセージを受信したMGCは、SIP側へ(イ)レスポンス又は183(Session Progress)レスポンスを送信する。 着信側の端末が応答すると、ISUP側からANMメッセージが送信され、ANMメッセージを受信したMGCは、 SIP側へ200(OK)レスポンスを送信する。
ISUP発信-SIP着信の接続形態の基本接続シーケンスにおいて、ISUP側から (ア)メッセージを受信したMGCは、SIP側へINVITEメッセージを送り、 SIP側から100(Trying)レスポンスを受信する。100(Trying)レスポンス受信後、 SIP側から(イ)メッセージを受信したMGCは、SIP側へINVITEメッセージを送り、 SIPレスポンスを受信したMGCは、着信側が空きであることを示すACMメッセージをISUP側へ送信する。 MGCは、(イ)レスポンスのような暫定レスポンスを二つ以上受信する場合がある。 その場合、MGCは、二つ目以降の暫定レスポンスを (ウ)メッセージにマッピングして、 ISUP側へ送信する。
ISUP発信-SIP網経由-ISUP着信の接続形態において、 発信側のISUPと着信側のISUP間で付加サービス情報も含めて完全なインタワークが必要な場合は、 SIPとISUPのインタワーク機能の総称である(エ) が提供する機能のうちのISUP信号透過転送機能を用いてISUPメッセージのカプセル化が行われる。
① CHG | ② CPG | ③ SUS | ④ SCCP |
⑤ IAM | ⑥ IDP | ⑦ ALERT | ⑧ H.323 |
⑨ REL | ⑩ RES | ⑪ SETUP | ⑫ SIP-T |
⑬ MEGACO | ⑭ 180(Ringing) | ⑮ 182(Queued) | ⑯ 202(Accepted) |
(ア) ⑤ IAM | (イ) ⑭ 180(Ringing) |
(ウ) ② CPG | (エ) ⑫ SIP-T |
SIPとISUPのインタワークには、一般に、MGC(Media Gateway Controller)が用いられ、発呼時におけるインタワークで必要とされるMGCの動作は、SIP側から発呼したものであるか、 ISUP側から発呼したものであるかで異なる。
SIP発信-ISUP着信の接続形態の基本接続シーケンスにおいて、SIP側からINVITEリクエストを受信したMGCは、 INVITEリクエストの内容が処理継続可能である場合には、ISUP側へ IAMメッセージを送出する。 IAMメッセージが着信側の交換機まで到達した場合には、 着信側交換機からACMメッセージが送信される。ACMメッセージを受信したMGCは、SIP側へ 180(Ringing)レスポンス又は183(Session Progress)レスポンスを送信する。着信側の端末が応答すると、ISUP側からANMメッセージが送信され、 ANMメッセージを受信したMGCは、SIP側へ200(OK)レスポンスを送信する。
ISUP発信-SIP着信の接続形態の基本接続シーケンスにおいて、ISUP側から IAMメッセージを受信したMGCは、SIP側へINVITEメッセージを送り、 SIP側から100(Trying)レスポンスを受信する。100(Trying)レスポンス受信後、SIP側から 180(Ringing)メッセージを受信したMGCは、SIP側へINVITEメッセージを送り、 SIPレスポンスを受信したMGCは、着信側が空きであることを示すACMメッセージをISUP側へ送信する。 MGCは、 180(Ringing)レスポンスのような暫定レスポンスを二つ以上受信する場合がある。 その場合、MGCは、二つ目以降の暫定レスポンスを CPGメッセージにマッピングして、ISUP側へ送信する。
ISUP発信-SIP網経由-ISUP着信の接続形態において、 発信側のISUPと着信側のISUP間で付加サービス情報も含めて完全なインタワークが必要な場合は、 SIPとISUPのインタワーク機能の総称である SIP-Tが提供する機能のうちのISUP信号透過転送機能を用いてISUPメッセージのカプセル化が行われる。
この問題は、TCP/IPプロトコル群のひとつであるSIPと、共通線信号方式におけるISUP、 そしてこれらの関係が問われる問題です。ISUPは、共通線信号網でISDNを利用するための技術です。 ISDNは、2020年代半ばにはサービス終息する予定になっています。それ以降の固定電話は、 SIPが活躍するIP電話へと移行することとなります。数年後にはISUPの知識は無用の長物となります。 しかし、それまではISDNのサービスをしっかりと支えていく必要があります。おそらく、 このような背景で、SIPとISUPの連携が出題されているのだと考えます。なお、ISUPについては、 平成29年度第2回(2018年1月実施)でも、出題されています。
共通線信号方式は、第5回のNo.7共通線信号方式の信号接続制御部でも触れていますが、 軽く復習です。
共通線信号方式とは、固定電話網で制御用に使う局間信号の方式のひとつです。 共通線信号方式では、通話線とは独立した局間信号専用の信号線を設けます。 局間信号専用の信号線は、多数の通信回線によって共通に使われるため、共通線と呼ばれます。 この共通線を使った局間信号方式が、共通線信号方式です。 ちなみに、共通線信号方式が登場する前は、局間信号は通話線に重畳して送られていました。この方式は、 局間信号を個々の通話線を使って転送するので、個別線信号方式と呼ばれます。
共通線信号方式では、階層を「レイヤ」と呼ばずに「レベル」と呼びます。そしてレベルは、4階層になっています。
レベル | 名称 | 機能概要 |
---|---|---|
4 | ユーザ部 | 信号の送信および受信を行うための機能を提供する。 |
3 | 信号網機能部 | 宛先の信号局に、信号を転送する機能を提供する。 |
2 | 信号リンク機能部 | 信号を隣接する信号局に、誤りなく転送する機能を提供する。 |
1 | 信号データリンク部 | 信号を伝送するための電気的条件や物理的条件を定める。 |
レベル1からレベル3は、OSI参照モデルの第1層から第3層に、おおざっぱには対応しています。 レベル3以下は、まとめてMTP(メッセージ転送部)と呼ばれています。これが(イ)に入るキーワードです。
MTPの上位レベルは、レベル4です。共通線信号方式ではOSI参照モデルの第4層から第6層に対応するレベルはないので、 レベル4は第7層に対応します。ただし、第3層の機能を一部含んでいます。
レベル4 は、ユーザ部とも呼ばれます。ここでのユーザとは、通信アプリケーションを意味します。 たとえば、電話やファクシミリ通信などが該当します。ISUPは(ISDNユーザ部)は、ISDN向けのユーザ部です。 ISDNにおける音声アプリケーションおよび非音声アプリケーションに対する回線交換サービス、 さらに回線交換に付随する付加サービスの提供に必要な機能を提供します。 ISDNにおける回線接続制御や回線監視制御の機能は、ISUPが担っています。
ISUPのメッセージには、以下のものがあります。
略語 | メッセージ | 概要 |
---|---|---|
ACM | Address Complete Message | アドレス完了メッセージ。着側端末が空き状態にあり、 着呼するのに必要な情報を受信したことを、発側交換機に通知する。 |
ANM | ANswer Message | 応答メッセージ。接続したことを、発側交換機に 通知する。 |
CPG | Call ProGress message | 呼経過メッセージ。着側端末が呼び出し中であることを、発側交換機に通知する。 |
IAM | Initial Address Message | アドレスメッセージ。接続を要求する。 |
REL | RELease message | 切断メッセージ。通話路の解放を行う。 |
RLC | ReLease Complete message | 復旧完了メッセージ。呼の解放を通知する。 |
呼の設定におけるISUPメッセージのシーケンスは、以下のようになります。
なお、DSS1とは「デジタル加入者線信号方式No.1」のことです。DSS1のメッセージ自体の出題は、少なくても10年以上ありません。 しかし、メッセージ名だけはダミー選択肢に登場するので、名前くらいは見ておいたほうが余計な惑いが少なくなると思います。
テーマのもう一方のSIPは、TCP/IPプロトコルのひとつで、セッション管理を行うためのプロトコルです。 現在は、IP電話における呼制御プロトコルの事実上の標準となっています。HTTPの仕様を流用している部分が多いため、 HTTPを知っている場合にはSIPの基本部分の理解は容易になっています。。
SIPでは、メッセージをリクエスト(要求)とレスポンス(応答)で分けています。 メッセージの種類は、リクエストではメソッド名、レスポンスではステータスコードで示されます。 代表的なSIPメソッドを 以下の表に示します。
メソッド | 概要 |
---|---|
INVITE | セッションの確立、更新、変更 |
ACK | セッションの確立の確認 |
BYE | セッションの終了 |
CANCEL | セッション確立のキャンセル |
REGISTER | 位置情報の登録 |
REFER | セッションの転送 |
ステータスコードは、3桁の数値で表現されます。下の表のように、数値の範囲によっておおまかな意味がきまっています。
ステータスコード | 分類 | 概要 |
---|---|---|
100~199 | 暫定応答 | リクエストが受信され、そのリクエストを処理中 |
200~299 | 成功応答 | リクエストの処理が成功 |
300~399 | リダイレクト応答 | 新たな位置情報等を提供 |
400~499 | クライアントのエラー | リクエストの誤りなど |
500~599 | サーバのエラー | サーバがリクエストの処理に失敗 |
600~699 | グローバルエラー | どのサーバでもリクエストが処理不可 |
呼の設定におけるSIPメッセージのシーケンスは、以下のようになります。 実線がリクエスト、破線がレスポンスを示します。
1つ目の段落です。
SIPとISUPのインタワークには、一般に、MGC(Media Gateway Controller)が用いられ、発呼時におけるインタワークで必要とされるMGCの動作は、SIP側から発呼したものであるか、 ISUP側から発呼したものであるかで異なる。
MGCは、Media Gateway Controllerの略で、IP網とPSTNの間でメディア変換を制御するものです。
SIPとISUPは、プロトコル構造や設計の背景にあるモデルが、根本的に異なります。 さらにはISUP の各国の仕様の違いもあります。そのため、完全に対応付けることはできません 通常は、RFC 3398に基づき対応付けが行われます。
2つ目の段落です。
SIP発信-ISUP着信の接続形態の基本接続シーケンスにおいて、 SIP側からINVITEリクエストを受信したMGCは、 INVITEリクエストの内容が処理継続可能である場合には、ISUP側へIAMメッセージを送出する。 IAMメッセージが着信側の交換機まで到達した場合には、 着信側交換機からACMメッセージが送信される。ACMメッセージを受信したMGCは、SIP側へ 180(Ringing)レスポンス又は183(Session Progress)レスポンスを送信する。着信側の端末が応答すると、ISUP側からANMメッセージが送信され、 ANMメッセージを受信したMGCは、SIP側へ200(OK)レスポンスを送信する。
SIP発信-ISUP着信のシーケンスの例を、次に示します。 なお、この例では、「180 Ringing」や「183 Session Progress」を例にあげていますが、 RFC 3398の仕様としては「18x」の応答です。
上の図で、SIPメッセージとISUPメッセージはほぼ対応していますが、対応付けられていていない点が若干あります。
1点目は、SIPの「100 Trying」に対応するISUPメッセージが無い点です。これは、SIPがUDPペースで、 つまりメッセージの到達保証がないネットワークでの動作も考慮しているためです。到達保証がないため、 送信側の端末は、INVITEメッセージ送出後、一定時間応答がないと、INVITEメッセージが到達しなかったものと判断し、 INVITEメッセージを再送します。「100 Trying」は、INVITEメッセージの無駄な再送信を抑えるための暫定応答です。 一方、ISUPは、下位のレベル2の処理で、メッセージ到達が保証されています。そのため、IAMメッセージが喪失することがないので、 暫定応答に相当するしくみは不要なのです。
2点目は、SIPの「ACK」に対応するISUPメッセージが無い点です。これも理由は、1点目と同じく、 SIPがメッセージの到達保証がないネットワークでの動作も考慮しているためです。到達保証がないため、 接続を確実に行おうとすると、TCPの3ウェイハンドシェイクと同じく、確認応答に対する確認応答が必要になるのです。 これもISUPでは、レベル2のメッセージ到達の保証により、不要となります。
3つ目の段落です。
ISUP発信-SIP着信の接続形態の基本接続シーケンスにおいて、ISUP側から IAMメッセージを受信したMGCは、SIP側へINVITEメッセージを送り、 SIP側から100(Trying)レスポンスを受信する。100(Trying)レスポンス受信後、SIP側から 180(Ringing)メッセージを受信したMGCは、SIP側へINVITEメッセージを送り、 SIPレスポンスを受信したMGCは、着信側が空きであることを示すACMメッセージをISUP側へ送信する。 MGCは、 180(Ringing)レスポンスのような暫定レスポンスを二つ以上受信する場合がある。 その場合、MGCは、二つ目以降の暫定レスポンスを CPGメッセージにマッピングして、ISUP側へ送信する。
ISUP発信-SIP着信のシーケンスの例を、次に示します。 なお、この例では、「180 Ringing」を例にあげていますが、RFC 3398の仕様としては「18x」の応答です。
「100 Trying」と「ACK」の相違の理由は、前セクションと同じです。
このシーケンスで見られる新たなポイントは、SIP側の「18x」に対して、 ISUP側の「ACM」と「CPG」の2種類のメッセージが対応付けられている点です。 これは、ISUP側の2つのメッセージの意味が、SIP側では暫定応答に対応付けざるを得ないためです。
4つ目の段落です。
ISUP発信-SIP網経由-ISUP着信の接続形態において、 発信側のISUPと着信側のISUP間で付加サービス情報も含めて完全なインタワークが必要な場合は、 SIPとISUPのインタワーク機能の総称である SIP-Tが提供する機能のうちのISUP信号透過転送機能を用いてISUPメッセージのカプセル化が行われる。
SIP-Tは、SIP for Telephonyの略です。ISUP情報をSIPでカプセル化することにより、SIP網内でISUP情報を透過的に転送します。 SIP網内ではISUP情報はカプセル化されるため、ISUP情報がSIP網で失われることはありません。 また、SIP網内での制御に関わるISUP情報は、カプセル化の際にヘッダ情報へ変換されます。 SIP-Tのこれらの機能により、発信側のISUPと着信側のISUP間で付加サービス情報も含めて完全な連係が可能となります。
今回のテーマは、SIPとISUPの連携です。したがって、解答のためにはSIPとISUPの双方の知識が必要となります。 今回の解説では、相互接続の前段部分で、説明の半分を費やしています。 これを見ても想像がつくかとは思いますが、出発点であるSIPとISUPの個々の整理が意外と手間がかかります。 ここで横着をして、相互接続部分だけを効率的に理解しようとすると、却って効率が落ちることがあります。 人間の記憶は関連付けによって、定着度が高まる傾向があるからです。
また、「必要なところだけ」と考えると、出題の変化への対応力も伸びません。 たとえば、平成29年度第2回(2018年1月実施)では、「CSMA/CD」に関する出題がありました。 これは10GbEでは、切り捨てられた技術です。表面的には消えた技術ですが、 L2スイッチのメリットを整理する上で、CSMA/CDの知識は欠かせません。 そのように考え、L2スイッチを整理する段階で、CSMA/CDまで一歩踏み込んでいれば、この問題は容易に解答できました。
しかし、学習時間に余裕がないと、必要なところだけを効率的にと考えてしまいます。 そうならないように、できることなら、受験準備の期間には余裕をもって、臨んでください。 関連事項を整理することは、記憶を定着させるだけでなく、出題の変化へ対応するための柔軟性も高まります。
このページの図表は、日本理工出版会刊「伝送交換設備及び設備管理-専門科目(伝送・交換)にも対応」の一部を、 著作者と出版社の許諾を得て使用しています。