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2016年 11月 11日
平成28年度第1回(2016年7月実施) 電気通信主任技術者試験の「伝送交換設備及び設備管理」の 問1 (2)(ⅰ)の過去問です。
出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(オ)に適した番号を選ぶ問題です。
GE-PONの伝送技術について述べた次のA~Cの文章は、(オ)。
A | GE-PONでは、WDM技術を用いることにより、 1心の光ファイバで上り信号と下り信号を異なる波長を使用して伝送する双方向通信を行っている。 1台の通信事業者側装置と複数のユーザ側装置は、 能動素子を用いた光スプリッタと光ファイバとを介して接続されたツリー構造を有する。 |
B | GE-PONは上り信号と下り信号の伝送速度を独立に設定することができ、 下り信号の伝送速度としては1Gbit/s、上り信号の伝送速度としては155 Mbit/s、 622 Mbit/s及び1.24 Gbit/sが使用されている。 |
C | OLTからの送信信号は、放送形式でOLT配下の複数のONUに到達するため、信号を受信したONUは、イーサネットフレームのプリアンブル内に配置されたLLID(Logical Link ID)といわれる識別子を用いて、受信したフレームが自分宛であるかどうかを判断している。 |
① Aのみ正しい | ② Bのみ正しい | ③ Cのみ正しい | |
④ A、Bが正しい | ⑤ A、Cが正しい | ⑥ B、Cが正しい | |
⑦ A、B、Cいずれも正しい | ⑧ A、B、Cいずれも正しくない | ||
⑦ A、B、Cいずれも正しい | |||
⑧ A、B、Cいずれも正しくない |
「③ Cのみ正しい」が正解です。
GE-PONに関する出題です。
GE-PONは、比較的出題頻度が高いキーワードです。「伝送」、「交換」、「データ通信」でも、 GE-PONは出題されています。
第10回のWDMと同様に、いろいろな角度から出題されているので、幅広くGE-PONを捉える必要があります。
GE-PONは、FTTHの実装技術のひとつです。
GE-PONの概要を説明するために、まずFTTHの接続形態から整理します。 FTTHの接続形態には、以下の3種類あります。
シングルスター型と他の2つの違いは、設備センタとユーザ宅の間の分岐の有無です。 分岐なしがシングルスター型、分岐ありがダブルスター型です。
2つのダブルスター型の違いの特徴的な点は、分岐点に置かれる装置です。
アクティブダブルスター型では、分岐点に能動素子を使った装置が置かれます。 能動素子とは、トランジスタのように、動作に電力が必要となる素子です。 つまり、アクティブダブルスター型の分岐点に置かれる装置には、電源が必要です。 なお、能動素子の「能動」は、英語で"Active"です。
これに対して、パッシブダブルスター型では、分岐点に能動素子を使かわずに受動素子だけを使った装置が置かれます。 受動素子とは、ダイオードやコンデンサのように、動作に電力が不要な素子です。 つまり、パッシブダブルスター型の分岐点に置かれる装置は、電源が不要な単純なものとなります。 なお、能動素子の「受動」は、英語で"Passive"です。
PONは、パッシブダブルスター型の実装技術の名称です。近年では、パッシブダブルスター型の別称としても、使われています。
PONの接続イメージを、下の図に示します。
回線終端装置は、設備センタ側とユーザ側で名称が異なります。設備センタ側がOLTで、ユーザ宅側がONUです。 したがって、「OLTからONUの通信」は、設備センタ側からユーザ宅側への通信、いわゆる下りの通信となります。
分岐点には、能動素子を使っていない光スプリッタが使われます。光スプリッタは、光合分波器とも呼ばれます。
GE-PONは、PONのひとつです。GE-PONも含めて、PONの種類について、簡単に整理します。
OLTとONUの間でATM セルを使う方式です。100〔Mbit/s〕での利用を想定しています。 下りの伝送性能は、155 Mbit/s及び622 Mbit/sのいずれかが使用されています。 上り信号の伝送速度は、155 Mbit/s、 622 Mbit/s及び1.24 Gbit/sのいずれかが使用されています。
試験対策面での話になりますが、100〔Mbit/s〕という理由でB-PONを無視するのは危険です。平成27年度第1回に、 B-PONが出題されています。また、この問題でも、見方によってはB-PONがらみです。
OLTとONUの間でイーサネットフレームを使う方式です。 B-PONと同じく100〔Mbit/s〕での利用を想定しています。
OLTとONUの間でイーサネットフレームを使う方式です。 1,000〔Mbit/s〕での利用を想定しています。 GE-PONは、IEEE802.3ahにおいて1000BASE-PX10と1000BASE-PX20の2方式が標準化されています。
OLTとONUの間で固定長のGTCフレームと呼ばれる固定長のフレームを使う方式です。
伝送性能は、下りが1.244〔Gbit/s〕または2.488〔Gbit/s〕、上りが最大1.244〔Gbit/s〕です。
問題文Aは、誤った文章です。誤りは後半にあります。まずは、誤りのない前半部分からです。
GE-PONでは、WDM技術を用いることにより、 1心の光ファイバで上り信号と下り信号を異なる波長を使用して伝送する双方向通信を行っている。
GE-PON では、上り信号に1,310 nm 帯、下り信号に1,490 nm帯を割り当て、波長分割により、 双方向通信を実現しています。 この問題の正誤には関係しませんが、下りはさらに映像配信用信号に1,555 nm帯を割り当て、合わせて3波長を多重化しています。
次は、問題文Aの後半です。正しくは、以下のようになります。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
1台の通信事業者側装置と複数のユーザ側装置は、 受動素子を用いた光スプリッタと光ファイバとを介して接続されたツリー構造を有する。
PONは、パッシブダブルスター型で使われる技術です。したがって、分岐点では能動素子は使われず受動素子だけが使われます。
問題文Bは、誤った文章です。正しくは、以下のようになります。アンダーライン部分が、誤っていた部分です。
GE-PONは上り信号と下り信号の伝送速度を独立に設定することができず、 下り信号も上り信号も伝送速度としては1 Gbit/sが使用されている。
GE-PONは、ギガビットイーサネットの技術をベースとしています。名称の"GE"は、 "Gigabit Ethernet"です。したがって、上りも下りも1 Gbit/sです。 (8B/10B符号化後ならば、1.25 Gbit/sです。)
別の正答形も考えられます。伝送速度を残すパターンです。
B-PONは上り信号と下り信号の伝送速度を独立に設定することができ、 上り信号の伝送速度としては155 Mbit/s及び622 Mbit/s、 下り信号の伝送速度としては155 Mbit/s、 622 Mbit/s及び1.24 Gbit/sが使用されている。
ここで注目すべきは、「155 Mbit/s」と「622 Mbit/s」です。これは、ATMの伝送性能の例としてしばしば登場する値です。 つまり、これらが伝送性能として登場しているということは、ATM関係の技術であることがわかります。 PONでいえば、ATMベースのB-PONか、ATMセルを扱えるG-PONのいずれかに限られます。
このような見方でも、問題文Bの記述の主題が、少なくてもGE-PONではないと判定できます。
問題文Cは、正しい文章です。
OLTからの送信信号は、放送形式でOLT配下の複数のONUに到達するため、信号を受信したONUは、 イーサネットフレームのプリアンブル内に配置されたLLID(Logical Link ID)といわれる識別子を用いて、受信したフレームが自分宛であるかどうかを判断している。
GE-PONにおける下り信号は、通信時間を細分化し、ONUに対して周期的に割り当てる方式をとっています。 細分化された時間単位は、タイムスロットと呼ばれます。そして、この方式は、TDM方式と呼ばれます。
なお、下り信号のTDM方式に対して、上り信号はTDMA方式を採用しています。 上り信号は複数のONUからの光信号が、光スプリッタで合波されるため、衝突が防ぐしくみが必要になります。 TDMAではONUがタイミングを調整して、フレームが同時に光スプリッタに達しないようにコントロールします。 かいつまんで言えば、TDM方式は時間を周期的に割り当てる方式、TDMA方式は時間差をコントロールする方式です。
下り信号の処理に話しを戻します。PONにおいて分岐点で使われる光スプリッタは、能動素子を使いません。したがって光スプリッタは、 信号からフレームの情報を読み取るような高度な処理はできません。 そのため、下り信号が光スプリッタで分波される際、光信号はすべてのONUに対してそのままの形で送られます。 ONUから見れば、自分宛てではないフレームまで、送られてくることになります。 ここで必要になるのが、ONUが自分宛てのフレームだけを取り出す仕組みです。 LLIDは、そのために使われます。
LLIDでは、ONUを識別するための16 bitの情報です。フレームを受信したONUは、 フレームからLLIDを読み出し、自分のLLIDと照合します。そして、フレームのLLIDが自ONUのLLIDと一致しない場合は、 フレームを破棄します。 この処理により、ONUは自分宛てのフレームだけを受信しています。
さて、このLLIDですが、格納される場所がユニークです。LLIDは、 フレームの前にあるプリアンブルの中に格納されます。プリアンブルとは、 フレームの先頭を識別するためにフレームの前に付けられる特定のビット列です。つまりフレームの外です。 イーサネットのフレームの中にはLLIDを入れる場所がないので、フレームの前にLLIDを埋め込んでいるのです。
上の図では、ビット列のイメージで"0"と"1"を並べています。16進数に読み替えるときは、 逆方向から読んでください。"1010 1010"ならば16進数では 55 です。
TDMとTDMAは、名前が似ているだけでなく、どちらも時間を使っている点で共通しているため、混乱しがちです。 このようなときは、技術の目的まで遡って考えると、見通しが開けることもあります。
TDMは、日本語では時分割多重です。ナントカ分割多重には、TDMのほかにFDMがあります。 これらは、名前にあるように多重化が目的です。つまり一本の伝送路で複数の通信を重ねるための技術です。 これに対してTDMAは、時分割多元接続です。ナントカ分割多元接続には、TDMAのほかに、FDMA、CDMA、SDMAなどがあります。 これらは、たとえば無線伝送などにおいて複数の端末が同時に基地局と通信するために使われます。
ここまで遡ると、TDMは一つのものから複数の同時に通信を行うための技術、TDMAは複数のものが一つのものへ同時に通信を行うための技術という性格付けができます。 設備センタ側のOLTとユーザ宅側のONUが1対多であることを考えれば、TDMはOLTからONUへの通信で利用、TDMAはONUからOLTへの通信で利用と結びつきます。
ここで紹介したような整理をすると、記憶するための負荷を軽くできます。関連のないことを記憶するより、関連のあることを記憶するほうが、楽だからです。 単に「TDMAは上り用」と丸暗記するより、「TDMAは複数の端末から基地局へだったから…」と記憶するほうが、楽なはずです。 特に主任技術者試験の伝送交換系の科目は範囲が広いため、覚えるべきことが多くなってします。しかしその反面、うまく整理すれば関連付けられることも多いはずです。 ぜひ、うまく情報を関連付けて、楽に覚えるための工夫もしてください。
このページの図は、日本理工出版会刊「伝送交換設備及び設備管理-専門科目(伝送・交換)にも対応」の一部を、 著作者と出版社の許諾を得て使用しています。